2005年第1回定例会 代表質問

第一回定例会代表質問
藤田 愛子

 生活者ネットからの今年度の予算要望の柱は、分権改革と財政再建、人口減少問題への取り組み、京都議定書発効をうけての環境重視政策です。国と地方の借金は700兆を超え、改めて「財政改革」の必要性が問われています。都は増収を受け、都市整備のみを増額としていますが、今後の震災対策や都市基盤の更新を考えれば、ビルドだけでなく、財政改革が重要となります。
三位一体改革による国からの財源移譲は中途半端で、地域の裁量を尊重した分権改革の視点とは異なったものです。今後、国と地方の役割分担の在り方を十分に検討し、真の分権を勝ち取ることが不可欠です。
私たちは以前より、都から区市町村への第二次分権を確固たるものにするよう都に求めてきました。更に第三次の分権、いわゆる市民への分権が、協働と共に重要です。市民と行政の協働を進めるために、自ら収めた税の一部を、応援したいNPOに助成するしくみが実践され始めています。今後は、都もこういった取り組みを応援することが求められています。

人口減少問題への取り組みについて
Q1 国の合計特殊出生率が1.29、東京は1.0をきり、来年をピークに人口が減少します。人口減少が悪いことだとはいえませんが、これまでの人口構成を基本とした社会保障制度や、右肩上がりの経済を前提としたままでは、選択を大きく誤ることになります。東京の適正規模の人口および都市基盤を提示する必要があります。少子化対策を真剣に考えるならば、全てを子どもの側から見直す体制が重要です。社会保障のために、財政のために、産業のために、という経済面だけを論じていても少子化問題は解決しません。人口減少を自明の前提として受け止め、財政、社会基盤整備、福祉、就労、教育等、多岐にわたる制度の転換が必要で、行政のあり方自体も変化が求められます。この問題に関しての将来ビジョンを、知事にお伺い致します。
A1(知事答弁)
日本は、今、歴史の大きな転換期にある。人口減少への評価は様々であるが、社会のあらゆる分野に影響を与えることは確かであり、行財政制度全般の見直しが迫られる。しかしながら、国は、いわゆる三位一体改革にみられるように危機感に乏しく抜本的改革の先送りを続け、国家財政は、破綻寸前である。都はこうした国の怠慢を座視することはできない。従来から、都市インフラの整備、大気汚染対策、福祉改革、財政再建など一連の東京の再生に向けた取り組みを進めてきた。また、移民の受入れなど大胆な政策の転換を、国に対して求めてきた。今後とも、時代の大きな変化を視野に入れ、都政の各分野の連携を強化し、都民の求める施策を展開していく。

Q2 世代間の不公平感や、社会保障自体に対する不信感は、『必要に基づく給付』が負担に応じて還元されるという実感が持てないというところに、大きな原因があります。このような状況が生まれた原因の一つは負担能力のある人を育ててこなかったことによります。若者がニートになっていくことを放置し、現在の社会保障制度が、こうした矛盾を解決できないことに問題があります。社会保障による『自立援助』を、若者、障がい者、高齢者、女性の能力開発と自己実現の機会の創出に結び付けなければなりません。
福祉国家といわれるスウェーデンでは、社会保障だけでなく、人材を育てるのに多大なコストと手間と社会環境を用意し、人間の尊厳を大事にする施策に熱心に取り組んでいます。今後の日本で重要なことは、最終的な社会的コストの増大を防ぐために、若者の就労支援、長期失業者の再就職支援、高齢者・障がい者の雇用と社会参加の促進、子育てに対する支援など、自立を促す施策を中心に据え、社会政策として一体的に推進していくことが最も重要です。そのため、今後の福祉政策においても自立を中心に位置づけることが必要と考えますが、都の取り組みの展望をどのようにお考えですか。
A2(福祉保健局答弁)
誰もが地域の中で、自ら必要なサービスを選択し、利用しながら、自立して生活できるよう、東京の福祉全体の水準を向上させていくことが、都の責務。都は、これまで、こうした考え方に立って、福祉改革に着手し、認知症高齢者や知的障害者のグループホームなどサービス基盤の整備や、第三者評価など利用者支援のしくみづくりを進めてきた。来年度は、こうした取り組みに加え、企業内で授産活動を行なう都独自の障害者の就労支援策や、生活保護世帯の自立促進事業を開始するなど、地域での自立を支える新しい福祉の実現に向け、改革を一層進めていく。

Q3 過去10年間に取り上げられた少子化問題では、男性議員による経済の観点からだけの発言に違和感を覚えました。少子化の原因は多様であり、解決策は、性別役割分業の固定化や、男女間の賃金格差などの間接差別をなくし、男女ともに子育てと仕事の両立支援や労働時間の規制など、あらゆる分野での方策が試みられなければなりません。
しかし、都議会においては、女性は家庭に戻り、子どもを産み、育児に専念すべきなどという意見が堂々とまかり通っていることに、少子化対策の遅れを感じています。
2003年に国が示した「次世代育成支援に関する当面の取組み方針」の中の「男性を含めた働き方の見直し」は注目に値しますが、都の「次世代育成支援東京都行動計画」の検討状況には、その考え方が全く示されていません。女性だけが子育てと仕事を両立させるのではなく、男性の働き方を見直し、アンペイドワークをどのように分かち合えるかが大きな課題です。都は、特定事業主行動計画を策定することになっており、父親の育児休業取得に関して、具体的な取り組みによる目標値の設定が不可欠です。スウェーデン、ノルウェーなどでは父親だけが取得できる育児休業・パパクォータ制度を導入し、父親の育児参加、両立支援に効果をあげています。都の事業主としての行動計画には、民間を先導する力があります。父親の育児休業取得率の向上に向けた取り組みについて伺います。
A3(総務局答弁)
男性職員の育児休業取得向上のための取り組みについてだが、都は、次世代育成支援対策推進法に基づく特定事業主行動計画の策定を進めている。職員・職場の意識改革、妊娠・子育て中の職員や、男性職員に対する支援などを内容とし、年度内に公表を予定している。

Q4 ひとり親家庭への次世代育成、子育て支援も急務です。特に母子家庭の収入状況が厳しい中、確実な現金給付としての児童扶養手当の一般財源化が、三位一体改革の中で検討されます。主要先進国では、経済基盤の脆弱なひとり親には、生活維持のための経済支援が行なわれていますが、日本のひとり親に対する支援はあまりに乏しいといわざるを得ません。所得保障をベースに、低家賃の住宅の確保や、安定した就労を支援する自立支援をいかに充実させるかによって、今後の社会的コストは変わってきます。都が「次世代育成支援東京都行動計画」と併せて「ひとり親家庭育成支援計画」を策定するとのことですが、その内容について伺います。
A4(福祉保健局答弁)
母子家庭などひとり親家庭が地域で生活していくためには、住まいや就労、子育てなど様々な面からの支援が重要と考えている。こうした考えのもとに、都はこれまでも、区市町村による地域の実情に応じた柔軟かつきめ細かな取り組みを支援する「ひとり親家庭総合支援事業」や、児童育成手当の支給などを独自に実施。現在策定中の計画においては、就労による自立の支援や、身近な地域での相談体制の整備などの施策を中心に据え、ひとり親家庭の自立をより一層促進する内容とする予定である。

Q5 人口減少社会における社会保障はまず、人口構造の変化に中立的な制度に迅速に変更することが必要です。また、近い将来高齢者人口が総人口の3分の1を占める規模となったとき、従来のように年齢によってひとくくりに捉えることが可能かという問題もあり、『老若共同参画社会』とも言うべきエイジフリーの観点で施策を位置づけなおし、65歳以上をすべて高齢者として位置づける今の施策のあり方が問われることになります。都としての基本的な考え方を伺います。
A5(福祉保健局答弁)
現行の社会保障制度は、公的年金制度に見られるように、基本的に、人口の増加と右肩上がりの経済成長を前提につくられている。将来にわたって、制度を安定的に維持し、国民全体の信頼を得ていくためには、人口減少社会の到来を踏まえ、制度のあり方を国全体で議論しながら、公の責任、国と地方自治体の役割分担、給付と負担の公平性などについて根本から問い直すことが必要であると認識している。年齢を基準とした個別の福祉施策も、このような視点から検討し、社会経済状況を踏まえながら、適時適切に見直していくことが必要である。

若者施策について
Q6 右肩上がりの経済が終焉し、漠然とした将来不安と『努力しても仕方ない』という感覚が一気に広がっています。ここ数年、中高年男性の自殺とホームレスの増加が顕著です。一方で、都心の億ションが即日完売するという現実があります。単なる不況ではない深刻な2極化が進行しているといわざるを得ません。
このような中で、ニートと呼ばれる教育も就労も、就職活動も職業訓練もしていない若い人たちが問題になっています。労働人口の中にカウントされるフリーターとは異なり、このニートと呼ばれる人は、非労働力人口で、昨年9月の『労働経済白書』では、52万人という数字が出ましたが、実際は100万人近くいるといわれています。労働力人口が減少する時期を目前に、企業も次世代に対し雇用に向けた訓練などの社会的責任を負わなければなりませんが、都の役割も大きいと思います。就労問題の観点から、こうした若者の実態を把握する必要があると思いますが、所見を伺います。
A6(産業労働局答弁)
就労問題からみたいわゆるニートの実態把握については、若者に対する就労支援として、現在「しごとセンター」において、キャリアカウンセラーによる相談や求職活動支援セミナー等を実施している。来年度は、カウンセリング機能を強化するなど、一層の充実を図る予定。こうした取り組みを通じて、また、NPOや有識者との情報交換などにより若者の実態の把握に努めていく。

Q7 ニート対策として、第一に教育の問題があります。都立高校での、生活するということと、職業をどのように教えているかについて伺います。現在、インターンシップが実施されていますが、1日のみの経験では仕事を知ることにはなりません。すべての都立高校でせめて2週間の実践をすべきと考えます。
A7 (教育長答弁)
一人ひとりの生徒が将来にわたる生き方を考え、主体的に進路を選択する能力と望ましい勤労観や職業観を身に付けることは重要。現在、都立高校では、校長の学校経営計画に基づき、98校が保育園、介護施設、地域企業などにおいてインターンシップを実施。2週間以上行なっている学校は15校ある。来年度は、職業観を育成するため、「職業観育成推進校」10校を指定し、インターンシップの充実等に取り組み、その成果を検証していく。

Q8 都立高校の中退者総数は減少傾向にはありますが、5000人を超えています。学校が子どもに合わない場合は、他の高校を紹介し、卒業までたどり着かせるべきです。成績不振による退学も、入試ではそのレベルに達していたわけですから、後の指導が足りなかったということではないでしょうか。達成感を味あわせないことが、その後の職業観にも関係し、引きこもりやニートを生みだしてしまうことにもなります。本人の意思を尊重することはいうまでもありませんが、一人の中退者も出さない、ということに評価があってしかるべきです。中退者も出さないことは教育長の責任であると考え、見解を伺います。
A8(教育長答弁)
中途退学対策は、高等学校教育における最も重要な課題の一つ。生徒一人ひとりが豊かで充実した学校生活を送ることができるよう、その解決に努めなければならないと受け止めている。都教育委員会は、チャレンジスクールやエンカレッジスクールなどの新しいタイプの高校の設置をはじめ、習熟度別授業や少人数による指導、スクールカウンセラーの配置等さまざまな取り組みを実施してきた。その結果、「東京構想2000」で定めた2015年までに達成すべき中途退学率の数値目標をすでに実現した。中途退学には、自らの信念に基づいて主体的に進路変更する場合もあるが、今後とも、生徒の能力・適性に応じた学習指導や進路指導を充実させ、個々の生徒に十分配慮した適切な指導を行なうとともに、学校の実態に応じて中途退学率の数値目標を掲げるなど、中途退学の防止に努めていく。

Q9 ニートに陥る原因を、若者の能力不足といった個人の問題とせず、社会構造の問題と受けとめるべきです。イギリスでは若者に提供されてきた従来の様々なサービスを互いにつなぎ合わせ、若者が社会との繋がりを持つよう包括的支援を行なっています。東京都では「しごとセンター」に就労に関する窓口として、ジョブカフェがありますが、この相談窓口を、若者に身近な繁華街などに設置するなど、きめ細かな対応が求められていると考えますが、いかがでしょうか。
A9(産業労働局答弁)
若者に身近な就労相談窓口の設置についてだが、就労を支援するためには、若者と接する機会を増やし、様々な働きかけを行なうことが効果的。このため、しごとセンター事業の一環として、新たに区部や多摩の繁華街等において相談に応ずる「街角カウンセリング」を開始し、効果的かつきめ細かな支援サービスを展開していく。

Q10 若者の自立を阻む一因に住宅問題があります。東京の住宅は高い、狭い、遠いがあたりまえですが、多摩ニュータウンのようにまちが一挙に高齢化するところには、若者を積極的に誘導することも有効と考えます。人との関係性を紡ぐ意味でのルームシェアが可能となるような住宅の提供も求められています。公営住宅法による制限も承知していますが、その時代に応じた公営住宅の使い方が積極的に考えられるべきと強く要望します。
さて、青少年健全育成条例改正事項の「青少年の性に対する関わり方」に関し、都は、これまで1988年、1997年の青少年問題協議会で議論を深め、児童福祉法で規定されている淫行処罰には踏み込まずにきました。取締り対象が大人とされているにも関わらず、関わった青少年が偏見をもたれがちであり、行為に愛情があるか、ないか、なども曖昧です。青少年の性の乱れを正すことと罰則規定を設けることが直結するとは考えにくく、改正には問題が残ります。自己決定権をもつ子どもたちに、自分の身を守るための性教育やメディアリテラシー教育の実施など、子どもに正面から向かい合う施策を早急に実施することが何より重要と考えます。条例改正による具体的な取り組みをお示し下さい。
A10(生活文化局答弁)
青少年は、ITや性の問題が生み出す危機に直面している。改正条例は、青少年がこの危機を乗り越える力を身に付けることができるように、大人社会が青少年に向き合う基本的な考え方を定めたもの。改正条例を踏まえ、青少年の性のあり方について、学校での生徒に対する指導を行なうとともに。心の東京革命の事業等においても、保護者に対し啓発等の取り組みを強化し、性に関する判断能力の育成を図っていく。青少年がITを適正に利用するため、保護者向けガイドブックの作成や、小学生及び保護者等に対するセミナーの実施により啓発に努める。

地球温暖化対策について
Q11 京都議定書が2月に発効され、世界規模の温暖化防止への第一歩が踏み出されました。社会経済活動の中心であり、直接・間接に大量のエネルギーを消費している大都市東京が、国に先駆けて持続可能な社会の構築を目指し、率先して行動を取ろうとしていることは、日本全体の地球温暖化対策にとって意義のあることと考えます。
しかしながら、都としてのエネルギー政策全般の見直しが行われていないことは問題です。特に、CO2削減目標を達成するためには、部門ごと、年度ごとの削減目標の設定、持続可能な社会実現のための制度を整備し、着実に成果を上げていかなくては最終目標を達成することはできません。1999年に策定された「東京エネルギービジョン」を改定して、21世紀型のエネルギーシフトを視野に入れた新たなエネルギービジョンを構築する必要があると考えますが、いかがでしょうか。
A11(環境局答弁)
都では、H14年に策定した環境基本計画に基づき、現在、省エネ対策及び再生可能エネルギーの普及などの地球温暖化対策を進めている。この基本計画を踏まえ、今回、4つの制度を創設・強化するため条例改正案を提出。大規模事業所については、都の指導助言と評価公表により、より高いCO2削減目標の設定と着実な対策の実施を誘導していく。また新たにエネルギー環境計画書制度を創設し、エネルギーの環境性の向上を電力の供給事業者に求めていく。さらに、来年度には再生可能エネルギー普及プロジェクトとして民間における導入の促進に関する調査を行なうこととしている。

意見 京都議定書のCO2削減の数値目標は今ある緑の保全が前提となっていますが、緑を残すだけでなく、いかに育てるかが重要なポイントです。臨海副都心構想で、森づくりを市民団体と共に提案した者として、13号埋立地の100年の森構想を、大いに評価しています。ソローの「森の生活」を思い浮かべながら、大木も一粒のドングリから、という海の森づくりに、環境問題に関心のある多くの都民の参加を期待し、また、東京が環境重視のまちづくりに転換することを期待して質問を終わります。