豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会 意見開陳
2017年5月24日
西崎 光子
都議会生活者ネットワークを代表して、意見開陳を行います。
◇ 豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会設置要綱において定められた「調査事項」に沿って意見を述べます。
(1) まず第一に、築地市場から豊洲市場への移転に関する経緯及び両市場の適正性についてです。
都議会生活者ネットワークは、豊洲への移転については一貫して反対し、築地再整備あるいは晴海移転を主張してきました。本委員会においては、バブル経済崩壊後の豊洲市場移転問題と豊洲晴海開発計画との関係について、四島(臨海地域、晴海、豊洲、有明北)の開発や環状二号線、補助315号線などとの関係について質してきたところです。
豊洲問題の根源には臨海開発の破綻と、豊洲晴海開発計画との関連があると考えます。バブル崩壊以降、地価が下落し、東京都の臨海開発のスキームがとん挫し、豊洲晴海開発計画も足踏み状態でした。そのため、市場の豊洲移転を開発の起爆剤としたいとの意思が働き、この計画が始まったということを改めて指摘しておきます。
(2) 次に、東京ガス株式会社などとの交渉及び土地売買に関する経緯についてです。この問題と(3)の調査事項である土壌汚染対策については、本委員会の最も重要な課題であったと認識しています。
そこで、本委員会において明らかになったことについて、意見を述べたいと思います。
第一は、いわゆる「水面下交渉」の実態が明らかにされたことです。結局のところ「水面下交渉」とは、基本的に東京都側に交渉記録を残さないことであったという事実が明らかにされたということです。そしてこの問題は、本委員会が東京ガス側の証人を喚問した結果、東京ガス側から大量の書類が提出されたからこそ明らかになりました。
仮に本委員会が設置されなかったとしたら、大量の交渉記録が作成されていたという事実は明らかにできなかったわけで、本委員会を設置した意義はこの事実一つとってもきわめて大きなものであったということを強調しておきたいと思います。逆にいえば、東京都は用地買収交渉という重要な事案の経緯を、議会や都民から隠ぺいし続けてきたのであって、その責任はきわめて重いです。
第二は、土壌汚染対策と護岸工事に関する問題です。土壌汚染対策に関する最終結論は用地売買契約書に表現されています。すなわち「豊洲地区用地の土壌汚染対策の費用に関する協定書」(用地売買契約と同時に平成23年3月31日に締結されたもの)に基づくとされたのです。この「協定書」は、「今後、東京ガス、東京ガス豊洲開発は土壌汚染にかかる費用は負担しない」と明記されていました。いわゆる「土壌汚染対策の免責」(瑕疵担保責任の免責)です。
また「防潮護岸の整備に係る開発者負担」の見直しについては、平成13年2月の「覚書」(浜渦副知事の公印)によって「見直す」ことに合意し、その後の平成13年7月の「築地市場の豊洲移転に関する東京都と東京ガスとの基本合意」(浜渦副知事)にあたっての確認書の存在が明らかになりました。この確認書は本委員会においては「二者間合意」と呼ばれるものでしたが、この確認書は当時の知事本部 野村寛氏によるサインによるものでした。そこには「防潮護岸の開発者負担はなしとする」と明記されていました。この確認こそが、以降の交渉や契約書を規定することになったのは明白です。
さて問題は、この土壌汚染対策と護岸整備に関わる交渉経緯と最終判断、責任の所在の問題です。野村氏サインによる「確認書」の存在は、本委員会がなければ闇に葬られてしまったものであり、その他の交渉記録は先に述べたとおりです。東京都側に交渉記録がほとんど残されず、公文書である「確認書」さえ保管されていなかったという事態は、問題の責任所在をあいまいにし、最終責任者であった石原元知事の逃げ道をつくることになりました。
第三は、本委員会における偽証の問題です。浜渦元知事と赤星氏(当時は知事本部、知事本局参事)の本委員会における偽証は明らかです。まず、浜渦元副知事についてです。それは、「平成13年7月の基本合意以降のことは知らない」という認識の下の数々の証言です。平成15年5月22日の3名の部長による「豊洲地区土壌汚染対策」についての指示を仰ぐ「お伺い文書」や本委員会における前川証言、野村証言から明白です。
4月4日の前川証人の発言では、「17年確認について、私も記憶していますが、こういった重大な問題を浜渦さんに上げないということは、これは大変なことでありましたから当時は。担当の部課長に確認をして、お手紙を出して、それで特段の指示はなかったということを聞いたことを覚えております」と、証言しています。
赤星氏については、「浜渦副知事からの交渉指示の否定」や平成13年2月と7月の覚書と基本合意と一体の確認及び確認書という存在そのものは知らない」と言っていることに対し、野村証人は、「基本合意を結んで、そこには基本的な事項、細目について確認書に載せるやり方をとっていたので、当然基本合意を結んだから、それに付随して一体のものとして確認書をつくるという理解をしていました」などと、証言しています。
このことからも、浜渦氏、赤星氏の偽証は明白です。
この二人の偽証はもちろん大きな問題で、二人に対する最終的な判断は本委員会において行うことになりますが、もう一つ見逃してはならない問題を指摘しておきたいと思います。それは、豊洲市場問題がこれだけ大きな問題となり、とりわけ用地取得や土壌汚染対策、建物の建築などに6000億円に迫る費用負担を都民に強いたことに対する責任感の欠如です。都庁において知事を補佐する副知事(浜渦氏は都庁に登庁することの少ない石原元知事に代わる強力な権限を行使していたとの前川証言もあります。赤星氏は、総務局長まで務めた都庁官僚とは考えられないような証言の数々は、きわめて残念であり、無責任です。
(3) 次に、土壌汚染対策以外の、豊洲市場の主な建物の下に盛り土がおこなわれなかった経緯です。
この問題では4人の元中央市場長が証言しました。しかしその証言は、4人とも「盛り土がない」ことについては知らないとの証言でした。また、この問題は小池知事の下に設置された「豊洲市場地下空間に関する調査特別チーム」が二度にわたる「自己検証」を行い、「第二次検証報告書」においては、関与したとされる部長級職員の氏名を報告し、「新市場担当部長は職責を全うしていない」「管理部長は職責を全うしたとはいえない」「市場長は事務方の最高責任者としての責めを免れない」として「責めを負う」とされました。これら職員はその後、処分されることになりました。
しかし、「豊洲市場地下空間に関する調査特別チーム」の報告書はもとより、本委員会においても石原元知事をはじめ、最終的な判断は誰が行ったのか、このことについては明らかにされませんでした。しかし、本委員会の責任として都民に対して明らかにすることが必要であり、その当時最高責任者であった石原元知事の責任は重大だと考えます。
(4) その他、調査事項としてあげられていた「豊洲建設工事における契約問題」については、証人喚問を行うまでに至っていません。この課題は現在、都政改革本部の内部統制プロジェクトチームが「入札改革」のあり方を議論しているところであり、さる5月15日にも業界団体からの知事ヒアリングが行われています。今後の議論の深化と、「入札改革」に向けた方針が確立されることを求めたいと思います。当然、この課題は都議会においても真剣に議論し、意見を集約していかなければならないと考えます。
◇ 第二の問題は、東京都における文書管理についてです。
東京都における文書管理の問題は、本委員会のみならず「豊洲市場地下空間に関する調査特別チーム」の検証過程でも明らかにされた課題です。その主な問題は次の諸点です。
第一は、東京ガス等との交渉記録が東京都にはほとんど保存されていなかった問題です。一度は保存していたにも関わらず、いつかの時点で廃棄されたのか、もともと保存されていなかったのか、詳細は不明です。しかし本来、作成し、保存すべき交渉記録が東京都から本委員会にほとんど提出されなかったという事実は非常に重いものがあります。
第二は、野村氏サインの確認書が本委員会に提出されたものの、それは東京ガスから提出されたものだったという事実です。本委員会では、その確認書の存在そのものさえ否定するかのような証言さえあったのです。野村氏は、この確認書が公文書であることを認めましたが、かりに本確認書が保存されていなかったとすれば、問題として2点指摘しなければなりません。
ひとつは、公文書作成と保存の一連の過程が無視されたことです。そして二つ目は、都議会や都民に対して事実を隠ぺいしようとしたことです。
第三は、「豊洲市場地下空間に関する調査特別チーム」の検証過程で明らかにされた委託事業者との打合せ記録の問題です。現在では東京都に限らず、委託事業者との打合せ記録は事業者側が作成し、自治体側と確認の上、自治体にも提出される方式になっていると考えられます。したがって当然、委託業者が作成したとはいえ、都側(中央市場)にも提出されていたもので、事業者側の記録にも記載されています。
そうした打合せ記録は、中央市場が保存しておかなければならない重要文書です。しかし残念ながら、この記録も調査特別チームに提出されたのは委託事業者からでした。
以上のように、豊洲市場問題が明らかにした重要な問題の一つが文書管理の問題です。さすがに東京都も「東京都公文書の管理に関する条例案の概要の公表及び意見募集について」のなかで、「先般、意思決定過程が明確に記録されていないなど、新たな課題が顕在化した」と説明しなければならない事態に至っています。
しかし、この公文書管理条例案も概要しか公表されず、東京都が都民に対して説明責任を果たしているとは言い難い状況だと考えます。生活者ネットワークとしては、公文書管理条例と情報公開条例は車の両輪であると考えてきました。都民の期待にそった条例案が提案され、都議会においても真摯な議論の展開によって条例が成立することを期待します。
最後に、4月26日の理事会で、突然桜井浩之前委員長が、これまでの委員会を否定し辞任したことは、遺憾です。委員会では、証人喚問の尋問や書類の調査など真摯に対応してきており、本委員会を愚弄し、その職務を放棄し、委員会運営を混乱させた責任は大きいといわざるを得ません。このことを指摘し、都議会生活者ネットワークの意見開陳とします。