2011年2月17日
星 裕子
1. 大都市における緑のあり方について
知事は、無秩序に開発・建設された東京では美しさが感じられないと嘆き、景観条例を改正して美しい風格ある首都東京に再生していきたいと繰り返して力説されました。「美しいまち東京」の実現は都民にとっても希望するものであり、一歩一歩それに近づいてほしいものですが、美しい景観形成には建物の色や形だけでなく、緑が占める役割が大きいと思われます。
都市の緑は、ヒートアイランド対策や防災機能など、都市環境の改善だけでなく、美しい景観の創出により、都民に潤いや安らぎを与えており、また生態系の保全からもとても重要です。しかし、高度経済成長やバブル経済などによる都市化の進展により、東京の緑は希少となっています。
都は、平成18年に策定した「10年後の東京」において、「水と緑の回廊で包まれた、美しいまち東京を復活させる」ことを掲げ、これを受け、平成19年に全庁横断型の戦略組織である「緑の都市づくり推進本部」を設置し、「緑の東京10年プロジェクト」を推進してきました。東京を成熟した都市にするためにも、大切な緑を守り、育てていかなくてはなりません。このことは緑豊かな都市づくりを掲げる生活者ネットワーク・みらいの主張とも一致するものです。
都は、これまでも緑の創出や保全に向けた様々な取組を行ってきましたが、都市の緑は、都市化の影響に常にさらされています。この取り組みが滞れば、またいつ都市の緑が失われるかわかりません。
「水と緑の回廊で包まれた、美しいまち東京を復活させる」にあたり、大都市における緑のあり方について、知事の所見をうかがいます。・・・・・・・・・・・・・・・Q1
A1: (知事)人類をはじめ、酸素を必要とする生命体は、緑の存在なくして、この地球上に存在し得ない。しかし、東京都の面積の約24倍の森林が、毎年、地球上から消失。
東京の都心には、皇居、明治神宮外苑など、ニューヨークのセントラルパークの2倍を超える約700ヘクタールもの大規模緑地が存在しており、先人たちの努力により、守り続けられてきた。
「10年後の東京」計画では、海の森を起点として、こうした大規模緑地を街路樹で結び、グリーンロードネットワークを形成するとともに、都立公園の整備、校庭の芝生化、屋上・壁面の緑化など、様々な工夫を凝らしながら、1,000ヘクタールの緑を新たに生み出す取組を展開。さらに、多摩、島しょ地域における貴重な里山や森林を次の世代に継承できるよう、計画的に保全。
「緑の東京募金」などを通じて、緑の育成に対する都民一人ひとりの意識を高めながら、従来の行政の枠を超えて、都民、民間企業、NPO法人などと協力し、緑あふれる美しい都市東京の実現をめざしていく。
2. 住民生活に光をそそぐ交付金について
今回、国は補正予算として3500億円の地域活性化交付金を計上し、そのうちの1000億円は「住民生活に光を注ぐ交付金」として計上されました。これを受け、都は消費者行政の強化やDV対策・自殺予防対策等を実施するため、補正予算に5億円を計上しています。
そこで確認ですが、そもそもこの「住民生活に光を注ぐ交付金」の趣旨と交付対象事業について、国からどのように示されているのか伺います。・・・・・・・・・・・・Q2
A2: (財務局長)交付金の趣旨は、これまで住民生活にとって大事な分野でありながら、光が十分に当てられてこなかった分野に対する地方の取組を支援すること。
具体的な対象事業としては、地方消費者行政、DV対策・自殺予防等の弱者対策・自立支援、知の地域づくりに係る事業が示されている。今回の都の補正予算においても、こうした趣旨を踏まえ計上している。
この耳慣れない交付金は、今後の継続も定かでない中、たいへん短い期間で計画を提出しなくてはならなかったという問題はありますが、今回の補正予算案に計上された事業については、都でこれまでにも取り組んできている事業、言い換えれば「すでに光が当たっている事業」であるという印象すら受けます。
都議会生活者ネットワーク・みらいとしては、弱者対策・自立支援の分野には、いまだ光が十分に当てられていない、本来、光を注ぐべき事業がさまざまにあり、都として取り組む事業はほかにもあると考えます。
そこで具体的な分野として「眼の不自由な人」への対策について伺います。眼鏡をかけても視力0.3未満の弱視児については文字を大きくした拡大教科書が必要です。2008年6月に成立したいわゆる『教科書バリアフリー法』では、文部科学省が定めた標準規格に基づく拡大教科書の発行の努力義務が出版社に課せられ、小中学校の全検定教科書の大半に拡大版が発行されています。視覚障がい者教育の専門機関である盲学校においては、拡大教科書の使用も可能となりましたが、普通高校に通う弱視生徒は、製作コストの点から大きな自己負担を余儀なくされています。今年1月、国は高校の拡大教科書の標準規格を策定し、教科書会社に拡大教科書の発行を促すとともに、ボランティア団体に教科書デジタルデータを提供、さらに高等学校、特別支援学校高等部もデジタルデータの提供が受けられるよう、実施要項を改正しました。これにより、学校が文科省へ届け出をすればデータの提供を受け、拡大教科書を学校で作成することが可能となっています。こうした流れを受けて、都教委は都立高等学校の弱視の生徒の実態を捉えると共に、拡大教科書の普及、使用について生徒、学校を支援すべきと考えますが、所見を伺います。・・・・・・Q3
A3: (教育長)高等学校等では、平成22年3月以降、教科書発行者が保有する教科書デジタルデータの提供を受け、拡大印刷することで、弱視の生徒一人一人に適した拡大教科書を提供することが可能となった。
平成21年9月1日時点の調査によると、都立高等学校の弱視の生徒13人のうち、拡大教科書を使用することが望ましいとされる弱視の生徒は4人。この4人の生徒については、定期考査の問題用紙を拡大するなど、個別の対応をしている。
今後とも、教科書デジタルデータの提供が受けられることを周知し、弱視の生徒に適した指導の充実を図るよう努めていく。
また、「見えにくい」人は盲人・弱視者に限りません。誰もが歳をとり、老眼鏡が必要な老後の時期は長くなっており、低視力の高齢者は全国で百数十万人いると推計されています。これまでバリアフリーと言えば建物や交通機関などハード面では配慮が進んでいますが、情報入手や読書など「ソフト」の部分ではまだまだ認識が広まっていないのではないかと思われます。視力低下をきたすと、日常生活の中で新聞はおろか手紙や行政からのお知らせが読めず、契約書や手続きの書類が滞る、などの問題も起きてきます。
「ソフト」のユニバーサルデザインの観点から、視力低下を含め、視覚に障がいのある方でも円滑に情報を入手可能とする取組が重要と考えますが、都の見解をうかがいます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Q4
A4: (福祉保健局長)高齢者、障がい者を含めすべての人の社会参加を促進していくためには、必要な情報を必要なときに容易に入手できるようにすることが重要。
都が実施する広報等では、「福祉のまちづくり推進計画」に基づき、点字、音声、文字の拡大、IT機器等の多様な伝達方法による情報提供を行っている。
都が作成する印刷物やホームページ等を見やすく、分かりやすいものとするため、色使いや、色の組み合わせなど、色覚に配慮した色の使い方に関するガイドラインを現在、検討している。
これから一層進んでいく高齢社会においては、身体的な不都合をカバーするだけではなく、高齢になっても文化的な日常生活が保障されるために、「読み書きサービス・代読・代筆サービス」を公的なサービスと位置付けることが重要です。今後、地域福祉計画においてこうしたサービスを検討する自治体も出てくるものと思われますが、都としてもサービスを担う人材の育成・研修等を支援し、全ての都民にサービスが行き届くよう強く要望します。
3. 新しい公共について
近年、日本においても、事業を通して社会問題を解決することを目的とした「社会的企業」や、障がい者の就労の場として、最低賃金を保障、社会保険にも入る新たな障がい者雇用のあり方としての「社会的事業所」と呼ばれるNPOや市民事業を立ち上げる人が増えています。
これまで、行政・営利企業・地域のそれぞれが、高齢者福祉や子育て・子育ちなどの公共サービスを担ってきましたが、そこに当てはまらない、隙間にいる人々への支援が大きな課題になっています。たとえば「子ども」に対しては、行政は学校や保育園、児童館、福祉事務所などを用意し、営利企業は私立の学校、幼稚園、また、各種の習い事や塾などを提供し、地域では、親や家族、近所の人、子ども会などが育ちを担ってきました。しかし、不登校やいじめ、虐待、自殺などの様々な社会的課題があり、その解決のための支援の1つとしてプレーパークや、子どもシェルターを運営するNPOなど、地域の中に必要な機能を、市民が自ら作りだしてきました。
地域特有の課題を解決するためには、公的措置としての「対策」ではなく、当事者に寄り添うことを大事にした地域の活動こそが、「新しい公共」であると、生活者ネットワーク・みらいでは考えています。そして、このような「社会的事業所」を地域の中に増やすことにより、市民が暮らしの視点の尺度を持って、地域独自の問題解決を図りながら「まちづくり」を行うことが必要なのです。
今回、国の「新しい公共」としての「市民・事業者・行政の協働」を進めるために補正予算が組まれ、「新しい公共の担い手となる特定非営利活動法人等の自立的活動を支援し、新しい公共の拡大と定着を図るため、基金を設置する」と、議案が出されています。
この基金を利用した支援事業について、どのように考えているのか、伺います。・Q5
A5: (生活文化局長)国のガイドラインによれば、支援事業は、NPO法人等の自立的活動を後押しし、新しい公共の拡大と定着を図るもの。
主な支援事業は、専門家派遣による個別指導等の活動基盤整備事業、寄付募集支援事業、及び、新しい公共の場づくりのためのモデル事業等。
今後、都は、ガイドラインに沿って、事業計画の策定、支援対象者や支援事業の選定等について具体的に検討。
4. 福祉保健区市町村包括補助事業について
福祉保健区市町村包括補助事業は、住民に最も身近な行政である市区町村が地域のニーズに応じた様々なサービスを提供することができるよう、都が支援し、都民の福祉の増進を図るというものであり、市区町村が主体的に、自らの発想と責任でサービスを展開していく、という点で、分権時代に相応しい事業であると評価し、さらなる充実を期待するものです。しかし、この数年間の各自治体の予算、事業内容等を細かく調査してみると、本来の目的である分権の視点や新たなニーズに応えるという積極的な取り組みをしている自治体とそうでないところと活用状況に差があるのではないかと思います。
そこで、都として、この事業の実施についてどのように評価しているのか、また、市区町村区における活用を促進するため、どのような取組を行っているのかを伺います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Q6
A6: (福祉保健局長)都は、都民に最も身近な区市町村が、地域の実情に応じ、主体的に、福祉・保健・医療サービスの向上を目指す取組を推進するため、包括補助事業を実施している。
現在、子育て家庭、高齢者、医療・福祉などの5つの施策分野で、延べ4600件を超える様々な取組が行われており、その中には、成年後見制度を普及する先駆的な取組が、全都的に広がった事例も生まれている。
都は、対象事業や活用方法に関する説明会を実施するほか、先駆的な取組が他の区市町村にも広がるよう、事例集の作成や事例発表会などを行っており、今後も引き続き、区市町村における包括補助事業の積極的な活用を推進していく。
ある市の検討事例を申し上げますと広い公園の中央にバリアフリートイレが設置されていましたが、乳幼児を連れて遊べる遊具の場所からは遠い距離にあったため、若い親たちから小さな子どもたちが使いやすいトイレをという要望が出ました。市は「公園整備内」の設置基準は満たされているため困難であると判断しましたが、「子育て支援という面から対応できないか」という市民活動団体からの提案を受け、包括補助事業の活用を含め、再検討することとなったと聞いています。地域では、子育てサークルや高齢者支援のグループなど住民による団体が、柔軟な発想を活かして様々な活動を行なっています。行政担当者だけではなく、こうした住民が包括補助事業について知り、市区町村に提案していくことなどにより、役所の縦割りの発想では気づかない、しなやかな視点を活かした包括補助事業の活用がなされるのではないかと考えます。
今後、都において、市区町村職員だけではなく、都民への周知を行うことも重要と考えますが、所見を伺います。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Q7
A7: (福祉保健局長)区市町村が、地域のニーズを踏まえ、きめ細かい福祉・保健・医療施策を展開していくためには、地域の意見や発想を活かした、創意工夫あふれる取組を実施することが重要である。
このため、都民の意見が様々な取組につながるよう、ホームページに包括補助事業の目的や先進的な取組事例を掲載するなど、都民に対する情報提供を行っていく。
子ども家庭、高齢者、障がい者など、施策の対象者により、また、地域によって、求めるニーズが様々に異なる中、区市町村において、包括補助事業がより一層有効に活用されるよう、都においても、積極的な働きかけをお願いしたい。
5. 在宅医療について
高齢化の進展に伴い、24時間365日切れ目のない在宅サービスを必要とする方も増え、医療・介護の連携強化が求められています。どんなに介護が必要になっても、おいしいものを食べたい、という要求は当たり前のことであり、その意欲が生きる力につながるのです。人間にとって食べることはまさに生きることそのものです。
ところが、要介護高齢者の中には、自分の歯があるにもかかわらず、噛んだり、飲み込んだりすることが困難な「摂食・嚥下障がい」のある方が少なくありません。摂食・嚥下障がいは、脳卒中の後遺症、神経障がい等さまざまな原因によって生じ、口から食べる楽しみを奪って生活の質を損なうばかりでなく、低栄養、誤嚥性肺炎、窒息等の原因ともなり、新聞報道によれば患者数は都内で7万人以上とも言われています。しかし、この障がいは、的確な評価、指導をすることで「飲み込む力」を回復させることができ、胃ろうや経鼻などの経管栄養に頼らなくてもすみ、医療費の軽減にもつながります。
摂食・嚥下障がいは、口から食べて飲み込むまでの一連の機能に関わる障がいであるため、医師・歯科医師・看護師・栄養士・言語聴覚士・歯科衛生士等多様な職種が関わる必要があります。
摂食・嚥下障がいに対応出来る人材の育成が重要と考えますが、都の見解を伺います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Q8
A8: (福祉保健局長)障がいに適切に対応するためには、医師・歯科医師が患者の状態を専門的に評価し、それに基づいて多職種が飲み込みの訓練や食事形態の工夫、姿勢の保持等のリハビリテーションに取組むことが必要である。
このため都は、平成20年度から医師・歯科医師対象とした専門的な研修を実施し、平成22年度は、リハビリテーションに携わるコメディカルスタッフを対象とした研修を開始。
今後は、これまでの取組みを踏まえ、都立心身障害者口腔保健センターにおいて体系的な研修を行い、摂食・嚥下機能障がいに対応できる医師・歯科医師・コメディカルスタッフなどの人材を育成していく。
摂食・嚥下機能支援の重要性については、残念ながら広く都民に周知されているとは言えません。摂食・嚥下障がいを疑ったとしても、地域のなかで的確な評価、指導ができる医師、歯科医師を見つけにくいのが現実です。その課題解決の糸口として、都は今年3月、「東京都摂食・嚥下機能支援推進マニュアル」を作成すると聞いています。
在宅医療が進むなか、在宅療養者の食を支えるには、摂食・嚥下リハビリテーションに関わる関係者間の連携が必要であると思いますが、都の見解を伺います。・・・・・Q9
A9: (福祉保健局長)都は、平成20・21年度、北多摩西部保健医療圏において、摂食・嚥下機能支援のモデル事業を実施。本事業では、地域の医師会、歯科医師会、行政等が参加する連絡会や、共通の事例を通して意見交換を図る事例検討会が、多職種の連携とスキルアップに有効であることを確認。
また、今年度、先進的な多職種協働の取組み事例等を紹介する「東京都摂食・嚥下機能支援推進マニュアル」を作成。
今後は、マニュアルの活用を促進するとともに、都保健所及び都立心身障害者口腔保健センターが開催する連絡会及び事例検討会を通して、関係者間の連携を強化していく。
以上