東京都を中心に国、村の連携で
小笠原諸島は、 父島列島・母島列島・硫黄島列島など、 太平洋に散在する30余りの亜熱帯の島々の総称です。 小笠原は第2次世界大戦の戦局により、 1944年に7000人近い島民が強制疎開させられ、 敗戦により米軍の占領下に入るという特異な歴史をもつ島です。 68年に日本に返還され、 島民の帰島が許されましたが、 その歴史が自然や地域振興に与えた影響が大きいことは言うに及びません。 自然保護、 地域活性の両面から対策が急がれる小笠原諸島を視察しました。 7月3日~7日。
報告 東京・生活者ネットワーク都議会議員(多摩市・稲城市) 新井美沙子
絶滅の危機にある島固有の貴重な動植物
珊瑚さんごがいっぱいの青い海、 緑の木々が揺れ、 固有の珍しい動植物が生息する小笠原の島々は、 72年にはその大部分が国立公園に指定されました。 昨年5月、 国の 「世界自然遺産候補地に関する検討会」 においては、 その候補地のひとつとされましたが、 惜しくも指定されませんでした。 理由は、 動植物ともに外来種 (移入種) がはびこっていること、 兄島の飛行場予定地だった部分が自然保護地区に指定されていないことでした。
東京都では移入種の駆除と在来種の保護に本格的に取り組み始めていますが、 アカギ・モクマオウなどの樹木やノヤギ・ノネズミ・アノールトカゲといった移入種の生き物退治は一筋縄ではいきません。 一方で、 島固有の貴重な動植物たちは次々と絶滅の危機に瀕しています。 小笠原独自の 「乾性低木林の上に背の高いマルハチやセボレーヤシが大きな円を描く風景」 は消えつつあります。
保全とともに欠かせない地域振興・まちおこし
視察で明らかになった大きな課題のひとつは、 世界自然遺産指定にむけて、 国・東京都・村の連携がまったくできていないことです。 国に関していえば、 林野庁がアカギ対策に取り組んでいるものの、 環境省は島に来てもいません。 上陸するのさえたいへんな兄島などのノヤギやノブタ、 はびこる外来種の樹木駆除は自衛隊が取り組めば可能かもしれませんが、 都が独自に実施することは困難です。 すでに絶滅してしまった種、 絶滅しそうな種が多く、 昆虫は手つかずの状態で調査さえ行われていません。 都が中心になって国や村と協議の場をつくり、 分担して取り組まなければ外来種の駆除も在来種の保存も進まないでしょう。
もうひとつの課題は、 進まない小笠原の地域活性化で、 都の 「亜熱帯農業センター」 の役割を見直すことも必要です。 同センターは亜熱帯農業の研究と植物園の経営を行っていますが、 植物園は地元NPOに任せて、 たとえば「地域資源開発センター」 として亜熱帯果実の流通を図るなど、 小笠原の地域振興・まちおこしを視野に、 自立支援をしていくことが望まれます。 強制疎開、 そして強制帰還という特異な経験をもつ島の自立にむけた振興は重要な課題です。
さらに、手術を要するような重い病気になると、病院がないため自衛隊のヘリで内地(東京)に運ばざるを得ず、高齢化率が12%と低いというのが実態です。 船は6日に1回しか出ず、親の死に目にも会えないことがたびたびなど、課題は山積しています。
小笠原の島々を世界自然遺産の地に
東京都小笠原村。 竹芝桟橋から父島までは1007km。 船に揺られて片道25時間かかるこの島々で、都の環境局は例年エコツアーを行っていますが、 来年には高速艇が就航し、 16時間で小笠原を結ぶことができるようになります。 早急に局関連携を図り、 自然保護と地域振興の両面から支援のあり方を模索することが必要です。
東京都は、 村や住民の信頼を得ており、 小さいながらも地元で活躍するNPOと都との連携も始まっています。 今回の視察では、 自然保護や小笠原文化の継承を目的に活動している4つのNPOとも交流してきました。
東京に世界自然遺産に指定されるような小笠原という島々がある……、 素敵だと思いませんか。 なんとか課題をひとつづつ解決し、 登録を実現させたいものです。